ピルとは主に避妊目的で使用される女性ホルモン剤です。日本では一般的に経口避妊薬のことをピルと呼び、通常ピルと言うと「低用量ピル」を指す場合が多いです。OC(Oral Contraceptivesの略)と呼ばれることもあります。英語で「ピル(pill)」は錠剤やカプセルなどの薬全般を指すので、Theをつけて「The pill」となります。
日本でのピルの普及率は低いですが、世界では約1億人の女性がピルを使用していると言われています。日本ではまだピルを敬遠しがちですが、海外では当たり前のように使用されているのが現状です。ピルは避妊を目的とした使用だけでなく、現在は生理周期の安定・生理痛の軽減などさまざまな目的で使用されています。
低用量ピルとは?
ピルはアメリカで開発され、1960年に世界で初めて認可されました。当時は高用量ピルでリスクが高かったので、それらを改善し1973年に初めて低用量ピルが開発されたのです。ちなみに、日本では1999年にようやく低用量ピルが認可され発売されています。
ピルは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)という2つの女性ホルモンを主成分としています。これらはもともと女性の身体で作られているホルモンであり安全性も心配ありません。ピルによってその濃度を左右することで、妊娠を防ぐ効果があります。
ピルの主な効果は3つあります。1つ目は卵巣を休眠状態にすることで排卵を抑制することです。そのため、いざ精子がやって来ても卵子がなく受精が成立しません。2つ目は子宮内膜が厚くなるのを防ぐ効果があります。子宮内膜とは、受精卵のベビーベッドのようなものです。受精卵が着床しやすい環境を作り、衝撃などから優しく守っているのです。通常であれば、月経周期に伴ってこれが厚みを増し着床に備えます。しかし、ピルを飲んでいると内膜自体が厚くならないため、受精したとしても着床できなくなります。3つ目は頸管粘液の濃度を変化させます。粘液を濃くすることで子宮の入り口が狭くなり、精子が入ってくるのを阻む効果もあります。
このような効果によって避妊を行うのですが、ピルはもともと中・高用量のものしか認可されていませんでした。月経不順などの治療を目的としており、避妊目的では処方できなかったのです。このため、本来避妊目的であれば低い濃度のピルで十分有効なのに、高濃度のものを転用するしかなかったのです。濃度が高いと、当然吐き気やむくみなど様々な副作用が出やすくなってしまいます。
そこで登場したのが、低用量ピルです。その名の通り含まれるホルモンの量を限界まで低くしています。低いとは言っても避妊という目的であれば効果は十分得られます。低用量であるため、高用量のものと比べると副作用が起こる可能性は非常に少なくなります。ただ、ギリギリまでホルモン量を抑えているため、飲み忘れると効果が持続できなくなりますので注意が必要です。また、ピルの値段は割安になる場合が多くあります。
また、避妊目的だけでなく生理痛など月経トラブルで悩んでいる人には、それが軽減されることも多いようです。ホルモン剤だから・・・など、必要以上に怖がる必要はありません。まずは婦人科を受診し、医師と相談のうえで低用量ピルから試してみてはどうでしょうか。
ピルの種類
ピルは、卵胞ホルモンの用量によって超低用量・低用量・中用量・高用量があります。
ピルの種類 | 卵胞ホルモンの用量 (μg:マイクログラム) |
---|---|
高用量ピル | 50μg以上 |
中用量ピル | 50μg |
低用量ピル | 50μg未満 |
超低用量ピル | 30μg未満 |
ピルの副作用のほとんどは卵胞ホルモンに関係しています。そのため、卵胞ホルモンが少ないほど副作用が少ないと言われています。避妊や生理不順改善には、主に低用量ピルが使われています。
また、上記のピル以外に卵胞ホルモンを含まない「アフターピル=緊急避妊薬」があります。通常の避妊薬と違い、何かしらの理由で避妊に失敗した場合、性行為後に服用することで避妊ができる可能性が大きいというピルです。
※代表的な薬→アイピル・マドンナ
低用量ピルの種類(相性)
低用量ピルは通常28日周期を1シートとし、大きく分けると21錠タイプと28錠タイプのものがあります。28錠タイプのうち7錠は飲み忘れ防止のための偽薬(プラセボ)です。偽薬は有効成分の入っていないものですが、プラセボ効果も期待できます。薬によって用法が違いますので、必ずチェックしてください。
また、黄体ホルモンの量の変化によって相性(そうせい)という分類があります。21錠タイプ・28錠タイプともに、一相性・二相性・三相性に分かれます。
一相性ピル
一相性は同じ配合量のピルを飲み続けるためどれを飲んでも同じです。順番を気にする必要はありません。一定なホルモン量なので生理日の調整がしやすいのが特徴です。
※代表的な薬→マーべロン・ジネット35・ニエル72・ヤスミン
二相性ピル
二相性はホルモン量が二段階に変化します。日本では製造が中止となりましたが、海外では販売されています。自然のホルモン変化に近いため、月経前症候群などの症状の緩和に有効です。
※代表的な薬→オイレズ
三相性ピル
三相性はピルによってそれぞれのホルモン変化の仕方があるので個人差があります。三段階にホルモン量を変化させ、自然なホルモンバランスに近づけています。徐々に増やしていく種類と、中間で増やして後半に減らす種類があります。これによって不正出血をおさえることができます。ただし錠ごとにホルモン量が違うため順番を間違うと避妊効果が得られなかったり、不正出血がおこりやすくなります。また、ホルモンバランスのずれが生じる場合あるので調整が必要となります。
※代表的な薬→トリキュラー・オブラルL
低用量ピルの種類(世代)
さらに、開発された黄体ホルモンの順番によって第1~第4世代に分かれます。
第1世代ピル
第1世代では黄体ホルモンである「ノルエステロン」を使用しています。子宮内膜の増殖を防ぐ効果があり月経量が減るとされています。気持ちを安定させる効果もあり、月経前症候群への効果が期待されています。第1世代の黄体ホルモンは作用が弱くどうしても卵胞ホルモン量を増やさなければいけません。そのため、副作用が出やすくなっています。
※代表的な薬→ルナベル・オーソ777・シンフェーズ
第2世代ピル
卵胞ホルモンの量を抑えつつ黄体ホルモンの量も抑えるという研究が進み「レボノルゲストレル」という黄体ホルモンが使用されています。第2世代には三相性がよく使われているのは、これまで課題だった男性化症状を軽減するためです。
※代表的な薬→トリキュラー・アンジュ・リビアン
第3世代ピル
第3世代になるとピルの研究が進み第1世代や第2世代の欠点が改善されました。「デソゲストレル」という黄体ホルモンが使われていて、男性ホルモンを抑制するのでニキビに効果があります。
第4世代ピル
第4世代のピルは第1~3世代と異なり、卵胞ホルモンの量が通常だと50マイクログラム未満のところ30マイクログラム未満に抑えられています。これによって副作用を抑えることができます。「ドロスピレノン」という黄体ホルモンを配合したものも出てきました。ホルモンが少ないことから、超低用量ピルと呼ばれています。
このように、種類によって効果・副作用・値段などが違うので、自分に合ったものを選ぶことが大切です。